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「試行錯誤の戦略開発」小原順/みさわ Part2

陽気な人柄で大人気なプロポーカープレイヤーみさわさんこと、小原順さん。プレイヤーだけではなく、大型大会での解説やコーチングなど幅広くご活躍されています。ポーカー戦略以外にもこれまでのご経歴や結婚観まで、根掘り葉掘り聞いてきました!ポーカーメディアPOKER PICKSがお届けします。

「トーナメントで意識していること」


トーナメント中に意識している立ち回りなどはありますか?

トーナメントで意識してるのは、 どれだけそのフィールドのプレイヤーにダイナミックに合わせるかってことじゃないですか。 やっぱりハイローラーのトーナメントとメインイベントでは全然プレーヤープールが違うので、そのフィールドにどういう人が多いのかっていうことを考えて、事前にこのトーナメントだったらこのレンジかなみたいなものを用意するっていうことは意識してますね。

具体的にはどんなことでしょうか?

ハイローラーだったら、ポーカーに対する均衡的な理解が高いプレイヤーの率が高いじゃないですか。 なので、 そのハイローラーのフィールドだったら、いわゆる均衡寄りなレンジを持っていくわけです 。 でも、アミューズメントの1,000円トーナメントだと、ポーカーの勉強をしてないけど楽しんでるファンプレイヤーが多い。で、その層が全体的に比率が高いとするのであれば、その層が全体的に均衡からどっちに寄ってるのかっていうことを理解して、予想します。

プレイヤーの分析を行うのですね!

だから、多分スリーベット少ないなとか。 例えばSBからT7sとかでスリーベットしてくるかどうかといえば、それはしてこないじゃないですか。でも、均衡で言ったら、T7sとかって、ボタンのオープンに対してSBは3betをもう半分以上で返すよみたいなのが均衡なんですけど、それをT7sで3betするファンプレーヤーってのはそんなにいないわけですよ。だから、ボタンのオープンレンジを広げれるなとか、 そういうことを考えてプレイしてますね。

トーナメントの序盤、中盤、終盤によって意識している立ち回りはありますか?

ベースのバブルファクターへの理解じゃないですか。 やっぱりICMモデルでどれくらい自分にバブルファクターがかかってるか、そして相手にバブルファクターをかけられている状況なのか。 で、それによってどれくらいレンジを絞らなきゃいけないのか、どれくらい広がるのかっていうことはやっぱり意識してますし、そこを重点的に勉強はしていますね。 ただ、やっぱりめちゃくちゃ勉強してるんですけど、それをかなり近く寄せることっていうのはかなり難しいですね。

メタ的な部分で寄せるところみたいなものもよくある感じですか?

よくありますね。自分が打ってるフィールドはライブMTTなんですけど、ライブMTTでの均衡のプレーっていうのはもうもったいなくてできないですね。っていうのも、ライブMTTのミドルステークスにおいて均衡を理解したプレーみたいなのをしてるプレーヤー数が少なすぎて。

なるほど。確かにそうですね。

そうなると、そのまま均衡に寄せたプレイをするのがあまりにももったいなさすぎる。相手が均衡からずれすぎていれば、こちらの戦術によっては相手がずれてる分だけ最大利益を取れ、取り入る戦術がこっちにあるはずなので、そういう面ではもうミドルステークス以下のライブMTTにおいてはもうGTOプレイからズレないように、と意識してプレイしてることはほぼないんじゃないですか。そういう意味ではファックGTOでやってますもん。 ただ自分がGTOへの理解が浅いと相手のズレに気付けないですし、戦略構築のしようがないので学習は必須だと思います。搾取されたくないですし(笑)

それは相手を見ながらやっているんでしょうか。

仮想の相手というか、 もう人間って大体こうでしょっていうのがありますね。 でもそれって結構心理学的なところを勉強した方がいいとかなり思ってます。プロスペクト理論とか、行動経済学のところとかの理論とかを。 人間ってどうせ、要はバイアスがどっちにかかってるかとか、 得るバイアスよりも失うバイアスの方が人間的には精神的なストレスが溜まる。 だから失わないように人間はするから、 結局そのリスクを取らない選択肢をみんな取るんですよ。

確かに、チップをたくさん失ったりするのって誰でも嫌ですね…

人間ってもう、そういう風にできてるから、もうこうしときゃ間違いないよねみたいなものを一応用意はしてますね。だから、卓に座ってから人を観察して人に応じてプレーを変えるみたいなのはほとんどないですね。 どちらかというと、元々それがベースとしてあって、そっからこの人どうやら違うっぽい、みたいな。 それこそラスワンみたいな人間ってすごく特殊なんで。なんかとんでもない人がいた時に、その人用のものを、すでに持っている引き出しから出すみたいなイメージです。

「試行錯誤の中で自分なりの戦術を考える」


小技みたいなものって何か使ってたりするのでしょうか。

例えば、プリフロのミニマムレイズとかですかね。

なるほど!

でもこういう小技をなんか色々試してみて、新しい戦術を考えてみて、それをやってみて、実際どういうサンプルが得られて、それが実際現場で使うのに使えそうかどうかっていうのを考えるのがめっちゃ好きなんですよ。

なので、要はブラインド1,000/2,000で、4,000のレイズに対して6,000のミニマムレイズをするプレー、これってあんまり均衡的なプレーじゃないんですけど、ライブポーカーにおいて、こっちのミニマム3betに対して適切に4bet返せなかったりそれに対して間違って降りちゃってるプレーヤーはかなりいます。 本当は4,000点に対して6,000点のミニマム3betを返しても、降りるハンドなんてほとんどないわけですよね。上に2,000点なわけなんで。でも、それで「ミニマムレイズめっちゃAAっぽい」とか言って降りる人もたまにいるんですよ。 そういう人に対しては、間違いなくブラフハンドでミニマム3betする事がプラスになる。そういうのが相手が均衡から外れてそうだなって思うプレーヤーに対してやるプレーの小技としてはありますね。

それはみさわさんとしてはすごく意識していることなんでしょうか?

めちゃくちゃ大事にしてますね。 普通にGTOに従うだけじゃなくて、あえてそこから外れてみることが、戦略の幅を広げるんじゃないかなと。例えば、GTO的にはインポジションからSBに対しては3.5倍、アウトポジションからは4倍、BBからなら5倍の3betを返すのがセオリーだけど、これをそのまま守るだけだと、どうしても可能性が狭まると思うんですよ。

確かに。

なので、例えば3.5倍じゃなくて、2.5倍にしたらどうなるんだろうって考えたりするんですよね。3.5倍に3betされた時のそれに対する抵抗レンジを覚えてる人がいても、2.5倍にされたらどうすればいいかわかんなくて明らかにエラーを起こす人ってめっちゃいるんですよ。 そういうところで、こういう風にしてみたら相手ってどういう風に反応するんだろうなみたいなことをたくさん試してみて、トライアンドエラーを繰り返して自分なりの戦略を見つけていくのが、結構俺の中では大事かなとは思ってます。そもそも自分が2.5倍の3BETするレンジ構成自体がわからないのでその戦術を考えるのも好きですね。

「いつだって全弾。全部取り切るのがポーカーなんで。」


YouTubeでよくみさわさんのプレーを拝見させていただいていますが、かなりポットを大きくするイメージがありまして。それはどんな意図でやられているんでしょうか。

それはですね、一般的な均衡よりも人間がポットを大きくしなさすぎるからなんですね。 基本的にポーカーって相手のチップを1発で全部取りに行くゲームなんで、基本的に100bbあっても500bb持ってても、そのポットで全部取りに行きたいんですよ。

確かに!

だから、ポットを大きくしないと500bbを全弾取りに行くのって難しいんですよ。 例えば、フロップでいきなり大きく打つのは、もちろんボードによるんですけど、言うてもフロップは結局3分の1ぐらいしか打てないわけですよ。 ってなると、ターンでポットの2倍とか3倍打たないと全弾取れないじゃないですか。

そうですね。

だから、こっちとしてはフロップやターンでポットオーバーを打つのが普通だと思っているけど、一般的にポーカーをしている人たちは、「ポットより高く打つなんてありえない」って思っていることが多いんですよ。実際、ポットより大きく打ったことが今までありませんって人、半分ぐらいいるんじゃないかな。

ふむふむ。

だから、ポットオーバーっていうのは今でこそ言ってみたら当たり前なんですけど、多くの人は「ポットより大きく打つのはリスクが高すぎる」って思い込んでるだけなんですよね。それで見てる人たちは、「こんなに大きく打つの?」とか「こんなにバリューを取りに行くの?」って思うんじゃないですか。

でも、他の人が30bbしか取れなかったところで、俺が200bb取れたらそれだけで170bbの差が出るわけなんで、そっちの方が得じゃないですか。もちろんその分リスクも増えるわけで、相手がもっと強かったら200bb取られちゃうんだけど。それは結構しょうがないところです。

すごく納得しました!

だから人は結構負けてるところを探しがちだけど、勝ってるところもちゃんと探さなきゃいけないんですよ。

たとえば、フロップにスペードスペードと落ちて、リバーで3枚目のスペードが出たとき、「フラッシュがあるかも」と考えて、ツーペアをチェックしてしまうかもしれない。でも実際、フラッシュじゃない方が8割くらいあるんだから、フラッシュじゃないところに対してバリューを取りに行った方がいいよね、っていうのもかなりあるじゃないですか。そういった意味で、 バリューを取り切る意識はすごく大事だと思っています。

あとは、レイズ返って来ないじゃないですか。ブラフのレイズが相手から返ってこないんで。 だから基本打ち放題じゃないですか。つまり積極的にバリューを取りに行くべきなんですよ。

それはもうトーナメントの本当の序盤とかでも、全段取りに行く姿勢なんでしょうか。

あ、そうそうそう。序盤なんか特にですよね。 後半なんてもう自然に入っちゃうから、むしろ1回チェックする遊びもあるくらい。たとえばフロップでSPRが2ぐらいだったら、 フロップで打って、ターンチェックしてもこれリバーオールインできんな、みたいな。 だからターン1回チェック挟んで相手からオールインしてもらう。

バリュー取りに行くのって、自分が打ってコールをもらうっていうのの他に、チェックして相手にブラフをしてもらうっていうバリューの作り方もあるんで、そこを1個挟めるかなみたいなのも考えますよ。目標がオールインなんでね。

なるほど。いつだって全弾を取ると。

いつだって全弾。全部取り切るのがポーカーなんで。 しかし取りに行くときも、その自分が負うリスクに対してそれ相応のリターンがあるかどうかを見極めて、大きいバリューを取りに行くっていうバランス感覚が結構大事ですね。

最初におっしゃってたバブルファクターと、そのバリューを取るっていうののバランスってどんな感じなんでしょうか。

バブルファクターっていうのは、結局、損するお金を得するお金で割った値なんですよ。 例えば、ICMで考えた時に、バブルファクターが2だとします。これが意味するのは、同じ1万点を取ることよりも、1万点を取られる方が2倍のダメージがある、ということなんですよね。 だから、自分が絶対に取られちゃいけないチップを持っているっていう意識を持つことは大事です。 同時に、FTとかでショートスタックがいる時って、こいつ1人飛んでから勝負しようかじゃなくて(プライズ1個上がるだけでFTってすごいんで)、たとえ自分より下にショートがいても、例えばATsでリスチールオールインをしなきゃいけないリスクがある時は、そのリスクを取るべき時もあるんです。 そのバランス感覚が大事なんですよね。

結構、どっちかに偏っちゃう人が多いんです。 FTだからってめっちゃ降りまくる人とか、逆にFTなのにガンガン行きまくる人とか。 そのちょうどいいバランス感覚をうまく保つことが、本当に難しいんですよ。

そのバランスを取るためにどのようなことを考えているんでしょうか。

考えてんの。これはね、もう本当に繰り返してるんですよ、今。

そうなんですね。

それを何とか体系化できないかなと思って、今いろんなスポットで研究してるんです。例えば、この時のバブルファクターはこのくらいで、本来の50%レフトの時と比べてレンジがどれくらい狭くなっているのかを見たり、バブルファクターやリスクプレミアムとの相関関係を抽出したりして研究してるんです。でも、やってみると「あれ、このパターン違うじゃん」とかなっちゃうんですよね。

だから、本当はその体系化ができたら一番いいんですよ。 特にコーチングをしてるんで、人に教える際に「ここはこれこれこういう理由で、俺が考えたこの式に当てはめればできるよ」っていう再現性の高い方法があれば、もっと効果的に教えられると思うんですけど、現状はそういうのがないので、1つ1つのシチュエーションごとにドリルを繰り返しているっていうのが実際のところです。

勉強になりました!!

Part3に続く

Poker Picks

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ポーカーピックスの編集部「ポーカーのすべてをあなたに」をコンセプトにポーカーのオリジナルコンテンツを執筆。現役プロプレイヤーやディーラーなど幅広い視点でポーカーの魅力を発信する。

Obara Jun

小原順

EPTPrague2022Main4thなどプロとしての実績を持ち、国内では大会解説やコーチング事業を行う。持ち前の明るいキャラクターで誰からも愛される。

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