「里見浩太朗さん小籔千豊さん本郷奏多さん 突撃取材」第6期ポーカー名人戦
今年1年、みなさんとポーカーの魅力を共有できたことに感謝しています。新しい年も、さらに充実したポーカーライフを楽しむためのヒントや情報をお届けしていきますので、ぜひ引き続きお楽しみください!今回はAmu先生のGTO教室の5限目です。今回トーナメントについてご教授いただきました。国内でも盛り上がりを見せている大型大会で好成績を残せるような情報がたくさん詰まっています。是非ご覧ください。ポーカーメディアPOKER PICKSがお届けします。
Amuさんが解説されている大会や動画が増えましたよね。
そうですね、定期的に誘ってくださることもあってご縁が増えました。
解説で意識していることはありますか?
間違ったことだけは言わないように気を付けています。ただ、私の解説イベントに参加された方にはプレイを評価してもらうことが目的で参加いただいているはずなので多少厳しいことをいうこともありますが、大型大会の解説では全員がそういうわけではないと思うので、どうやったらそのプレイが正当化されるかなど工夫をしています。
トーナメントって難しいですよね。いろんな情報が飛び交っていてなにが正しいのかよくわからないです。
インターネットに流れているトーナメント関係の情報はデタラメなものもあるので、本当に正しいのかをしっかり吟味する必要があります。それでは、今回はトーナメントについてのお話にしましょうか。
やった!トーナメント!よろしくお願いします!
基本的にトーナメントで意識すべきことはなんでしょうか。
トーナメントはICMを意識して、それに基づく戦略を学ぶことが大切です。
ICM?
Independent Chip Modelと呼ばれるものです。簡単に言うと、トーナメントのスタックを賞金の期待値に変換して得られた数値です。トーナメントでは、チップを増やすことが必ずしも賞金につながるわけではありません。
たしかに、チップを2倍にしたら入賞額も2倍になるわけじゃないですね。
はい。プライズを取れるかどうかが重要であるため、チップの期待値(チップEV)ではなく、プライズ期待値(プライズEV)を意識する必要があります。そのため、一般的なプレイと戦略が変わります。
そこで、このICMというものをベースとした戦略が重要になってくるということですね。
その通りです。ポカる君、回数を重ねていくごとに理解が速くなっていきますね。
へへん、僕だって成長しています!
ICMに基づく戦略になると、プレイはどう変化しますか。
たとえば、キャッシュゲームでもEVがそこまで高くないハンドはフォールドになったりします。ほかにもコールドコールが減ったり、チップをたくさん持っている人はオープンレンジが広くなるといったさまざまな戦略の変化が起こります。
また、3betpotや4betpotなど分散が大きくなるようなプレイは避ける傾向があります。
そうだったんだ。
一方で、分散を避けたいのは相手も同じことですので、相手に難しい判断を迫るアクションを取ることもあります。その結果、チップEVでは普段コールドコールするようなハンドをあえて3betすることもあります。
ICMに基づく戦略は、キャッシュゲームとは別の戦略として扱うべきなんですね。
トーナメントで意識すべきこととしてICM以外のことは考慮しなくてよいのですか?
いいえ、本当であればICM以外も考慮する必要があります。トーナメントは元の理論が非常に複雑、かつキャッシュと比較して非常に難しいものなので、ICMだけ考えればよいというわけでもありません。
ここでは詳しく説明しませんが、例えば、FGS(Future Game Strategy)と呼ばれる概念を考慮する場合もありますし、現代ではまだモデル化出来ていないような要素も考慮しなければならないこともあります。
え、そんな複雑なことできないよ。
そうですね、私でも難しいです。
このようなことから、これからトーナメントを学ぶのであれば、今ある理論の中で、最も直感的で親しみやすいICMから入るのがよいと思います。
わかりました!
トーナメントではストラクチャーやプライズの傾斜などいろいろと条件が違いますよね。これらはICMに基づく戦略に影響を与えるんですか?
プライズの傾斜が大きい小さいはICMに基づく戦略に影響を与えます。具体的には、プライズ傾斜が大きいほど戦略への影響は小さく、プライズ傾斜が小さく、どの順位でも賞金があまり変わらない時ほど戦略への影響が大きくなります。
プライズ傾斜が大きいトーナメントとは、1位の価値が高い形式のものですか?
その通りです。1位が非常に価値の高いプライズ傾斜であるほど、戦略はキャッシュゲームと近似します。例えば、1位にしかプライズがないトーナメントがあったとしたら、賞金金額は集めたチップの量に比例して、全て集めた人が全額・そうでない人が0$となりますよね? この場合はICMを考慮しないチップを増やせばいいだけのモデル(cEV Model)と同じ戦略になります。
なるほど。
一方で、プライズ傾斜が小さいトーナメントになるほどキャッシュゲームとはほど遠い戦略を取ります。 例えば、大型大会のサテライトなど入賞者全員のプライズが同じ価値の場合がこれに当たりますね。
国内トーナメントだとサテライト通過がほぼ必須なのでこの戦略を理解していないといけないんですね。
ブラインドストラクチャーはどうですか?
ブラインドストラクチャーの速い、遅いは、実はICMによる戦略を変えないです。
そうなんですか!よく「ターボなトーナメントはすぐショートになるからアグレッシブにチップを取るべきだ」ってお店で聞きますよ!
たしかによく聞きますね。しかし、そんな理論はないですし、ICMの戦略も計算にブラインドストラクチャーを考慮していないんですよ。
したがって、ターボトーナメントだからといって不必要にアグレッシブになるべきではないです。
そうだったんだ...。 では、ストラクチャーが速くてもICMを基準に考える場合、戦略への影響はないということですね。
そういうことです。基本的にはストラクチャーに関わらず今のエフェクティブスタックを考えて丁寧にプレイすることが大切ですね。
先生、ICM戦略について僕も興味が出てきました。もっと教えてください。
いいですよ。そうしたら、まずはICM戦略を学ぶ上で必要な用語から勉強していきましょう。
まず、バブルファクター(BF)から
BFは、残っている人数やプライズ傾斜などから導いたチップを増やすメリットと減らすことのデメリットにどれだけ差があるのかを数値化したものです。
バブルファクターっていうくらいだからバブル付近で使うんですね!
そういうわけでもないです。バブルファクターは単なる名称に過ぎず、トーナメント序盤でも、何ならキャッシュゲームにおいてもBFは働いています。
バブルという名前にとらわれちゃった...。
通常のキャッシュゲームではBFは1で、インマネ付近などチップを減らすことのデメリットが大きい状況になるほどBFは大きくなると理解をしてもらえればよいと思います。
次に重要なものがリスクプレミアムという単語です。
リスクプレミアムは、BFをもとに導かれたより使いやすい数値で、オッズに対して追加で何%の勝率が必要かを導くことができます。
先ほどもお話したとおり、トーナメントでは分散を避けることが重要になってきます。このことから、「オッズは合っているけど、負けた時の分散が苦しい」という状況がしばしば訪れます。そのため、オッズに合う勝率に加えて、何%あればコールに値するかを見積もる必要が出てきます。
そのようなときにリスクプレミアムを理解していると、分散を許容できる勝率が見積もれるので実践上非常に役立ちます。 例えば、リスクプレミアムが+10%とわかっていたとして、オッズに対する必要勝率が33%のbetに直面した時は勝率は43%以上必要と見積もることができます。
そんなこと考えたことなかった。
BFとリスクプレミアムを知ることで、トーナメントにおいて慎重にハンドを選ぶべきかアグレッシブに攻めるべきかがわかるということですね。
実際トーナメントでは、BFはどう変化していくのでしょうか。
トーナメントにおけるBFの変化についてはこの図がわかりやすいと思います。
BFはトーナメント開始時から存在していますが、人数が減るごとにBFは徐々に大きくなっていき、残りプレイヤーがエントリー数の75%まで減少したあたりからICM戦略を考慮する必要が出てきます。 具体的には、先ほど話した通り、コールドコールが減ったり、チップをたくさん持っている人はより広いレンジでオープンしていくなど戦略も徐々に変化が起こります。
多くのトーナメントにおいて、インザマネーはエントリー数の10~15%だから、それまではBFが大きくなる傾向にあるんですね。
その通りです。バブル付近まで来ると、BFは多くのプレイヤー間で2付近まで上昇し、それに伴い戦略も大きく変化していきます。具体的には、相手をカバーしている、相手にカバーされているといった条件ひとつでプリフロップのオールインレンジが劇的に変化します。
飛びたくないし、オールインを受けたときにコールするレンジも絞られそうですね。
そうです。全体的にタフな戦略構築が求められます。
このBFの大きな上昇は、ファイナルテーブル(FT)になる直前でも起こります。
インマネした後はどうなりますか?インマネするとみんな簡単にオールインして飛んでいくイメージです。
その感覚は一部あっていて、バブルが終わってインマネするとプライズが0ということは無くなりますからBFは一度低下します。
しかしよくいるのが、インマネした後にBFが1になっているんじゃないかってくらいルースになっている人です。 グラフを見てもわかるとおり、インマネ後もBFは働いているので、それ相応にハンドは選ぶ必要があります。
FTは少し特殊で、プレイヤーが1人減るごとにBFは低下していきます。したがって、FTにおいてBFが最も大きくなるのは残り9人など人数が一番多いときです。
人数が減って、最終的にヘッズアップになるとBFは1となり戦略はチップEVと等しくなります。
ヘッズアップまでなると優勝を争うだけですものね。
その通りです。
トーナメントって全体の戦略を学ぶのでさえ大変なんですね。 これだけ戦略が複雑だと間違えちゃいそう。
そうですね、トーナメントでのミスは特に致命的なものになりやすいので注意が必要です。
どのようなミスが致命的になりやすいですか?
EVとして一番致命的なものとなりやすいのがオールイン、特にオールインにコールするハンドの選択ミスです。
え、でもトーナメントって後半になって来るとオールインがバンバン飛び交いますよね?コールをしていかないと削られていってしまうイメージがあります。
具体的にはオールインに対してどのようなコールがミスとなるのですか?
もっとも致命的となるのは、「無理なレンジでコールする」というものです。これは、テーブル全体、その時参加していないプレイヤーにさえ影響を与える非常に大きなミスです。自身のミスによって起こるEVロスは参加していない人へプラスEVとして還元されてしまいます。
え、でも、人によってはエニーハンドでオールインしてくるので、エクスプロイトするためには多少弱いハンドでもコールしないといけない気がするんですけど...。
確かに、トーナメントにおいてBFが大きくなってくるとオールインレンジというものは拡大し、チップ差によってはエニーハンドでオールインする場合もあります。
しかし、それは「計算させた戦略ですらエニーハンドでオールインしてもいいほど、そのアクションのEVがプラス」になるからなんです。
これを見てみましょう。
これは13人からインザマネーのトーナメントで残り14人、SBまでフォールドで回ってきた時のSB側のアクションです。BBをカバーしていて、そのBBよりもショートスタックがいるケースになります。
SBのオールインレンジ(紫)
残り14人 インザマネー 13位~ アベレージスタック16bb、SBはlimpしないものとして計算
見ての通り、SBは計算させた戦略でも全レンジでオールイン(紫)をしています。
ふむふむ。
一方で、コール側は、ハンドの選択でEVの差が大きく出てしまいますので、ハンドを選ばなければなりません。
BB側のアクションを見てみましょう。
SBが全レンジでオールインした際のBBのオールインコールレンジ(緑)
残り14人 インザマネー 13位~ アベレージスタック16bb、SBはlimpしないものとして計算
本当だ!SBがすべてのハンドでオールインしているにもかかわらずBBがコールするハンド(緑)はすごく少ない!
このように、相手が全レンジでオールインをしていることがわかっていたとしても多くのハンドでフォールドを強いられてしまいます。
たまに、「相手がエニーハンドでオールインをしているから」と22などのローポケットやキッカーが強くないKハイなどで無理なコールをする人を見かけますが、そういったプレイは非常にEVマイナスなプレイに繋がるということです。
それだけではありません。オールインへの間違ったコールは、オールインした人も仮に適切なレンジでオールインをしていたとしてもEVがマイナスになってしまいます。
え!? 二人ともマイナスになったら、そのEVはどこにいっちゃうんですか!?
先ほども挙げたように二人が失ったEVは、ほかのプレイヤーに分配されます。たとえば、プリフロップでフォールドしたUTG、隣のテーブルのプレイヤー、時には、まだエントリーもしていないプレイヤーにさえEVが分配されてしまいます。
参加していない人が得をしちゃうんだ...。
このように、オールインに対する無理なコールは、自分のEVを犠牲に、ぶつかった相手のEVさえ下げてしまう行為となってしまいます。こういうプレイを「無理心中」と私はよくいいます。
どちらにとっても幸せではないですね...。
先生、戦略がこんなにも変わるって僕も今覚えたくらいなので、このようなプレイヤーと同卓することは少なくないと思います。間違ったプレイをするプレイヤーと同卓したときはどう対応すればいいのでしょうか。
基本的には、無理なコールなどをしているプレイヤーと同卓したときには、そのプレイヤーとぶつからないことが大切です。特に相手が降りることでEVが発生する、その人が誰かとぶつかっているだけで自分のEVはプラスになるので、際どいハンド、いわばスチール目的のオールインは避けてフォールドしていきましょう。
トーナメントでは持っているチップの分布が異なるのでそれによって戦略は変わってくると思います。チップ差はどのように意識すればよいのでしょうか。
状況にもよりますが、基本的には、自分より少しチップを持っているプレイヤー相手にはBFは大きくなり、逆らえなくなります。
一方で、自分がショートになるとBFの影響は小さくなるのでレンジはいくらか広がります。
テーブル内のチップ状況はよく観察したほうがよいということですね。
はい。特に、オープンした人がいたら、その後ろに何人カバーされているディープがいるのかを確認するとよいです。
オープンした人はディープスタックの人がいることを理解したうえでオープンしていた場合、そのレンジは強いことが多いですからね。周囲のチップ状況を観察する癖をつけておきましょう。
先生、トーナメントだとやっぱオールインは避けられないので、オールインのことも理解したいです。プリフロップでオールインになることも多いですけど、どうすればいいでしょうか。
プリフロップのプッシュレンジ(オープンオールイン)ですね。プッシュレンジは考えてハンドを選ぶ必要があります。
詳しく知りたいです!
プリフロップのプッシュは、基本的にはそのハンドだけでバリューベットとして機能するくらいチップが少ない時に検討されます。たとえば、プリフロップではエクイティが十分なポケットやAハイなどですね。
このように、ハンドを選ぶときはurgencyの高いハンド、プリフロップは十分なエクイティがあるがポストフロップが立ち回りがしづらいハンドから入れていくとよいです。
わかりました。
また、Aハイはエクイティだけでなく、Aのブロッカー効果もあります。
ブロッカー効果?
はい。自分がAを一枚持っていることで、相手が持つAの強いハンドの確率を下げています。これはブロッカー効果というものです。
そんな効果が働いているんですね!
それでは、ショートスタックのときには、エクイティの高そうなハンドからプッシュしていきます。
ただし、UTGなどアーリーポジションにいる場合は、そうもいきません。残りスタックが10bbを切っていても22や33といったポケットはプッシュしません。
え、何でですか?
アーリーポジションは、後ろに複数人がハンドを持って控えています。このとき、99以上の強いポケットハンドを持っている可能性はおおよそ3%前後です。したがって、後ろの人が強いハンドを持っていない97%の確率を少なくとも6人以上通さなければなりません。
また、仮にコールされたハンドがポケットでなかったとしても強いAハイなどと勝負しなければならず、厳しい戦いを強いられます。
たとえ5BBでもBFが高い状況では、UTGからは44などのローポケットをプッシュすることは難しい場合があります。
UTGのオールインレンジ(紫)
残り14人 インザマネー 13位~ アベレージスタック12bb、UTGはlimpしないものとして計算
COのオールインレンジ(紫)
残り14人 インザマネー 13位~ アベレージスタック12bb、COはlimpしないものとして計算
UTGとCOを比較してみると確かにローポケットやAのオフスートがない!
たまに、次がBBでチップを取られてしまうからという理由で、UTGのときにすごく広いレンジでプッシュする人がいますが、ブラインドを取られるという要素はハンドレンジに影響を与えず、むしろ狭いレンジで戦わなければならないことを覚えておきましょう。
はい、わかりました。
Amu先生!今回もありがとうございました!トーナメント、やれそうな気がしてきました!
トーナメントは複雑で、今回話したこと以外にも学ばなければならないことがたくさんあります。これからも勉強を続けてくださいね!
先生、今年もありがとうございました。先生のおかげで成長することが出来ました。もしよかったら先生の来年の抱負なんかお聞きしたいです。
そうですね、今年は人生がポーカーにシフトしたので激動の一年でしたね。
せっかくポーカーにシフトしたので、来年はもっとポーカーに時間を取っていきたいですし、日本のポーカー業界にもっと貢献していきたいですね。
日本のポーカーに貢献!!かっこいいです!!応援しています!!
ありがとうございます。ポカる君もポーカーがもっと上手くなるのを楽しみにしています!
ポーカーピックスの編集部「ポーカーのすべてをあなたに」をコンセプトにポーカーのオリジナルコンテンツを執筆。現役プロプレイヤーやディーラーなど幅広い視点でポーカーの魅力を発信する。
GTO Wizard Japan Official Coachとして、NoteやTwitterなどを中心にポーカーの理論の研究と発信し、GTO理論の国内普及に貢献する